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「子どもたちが幸せに生きていくために」。その一心で保育の現場をつくっているマ・メール保育園。
園にいる間、子どもたちをただ無事に預かるだけの保育ではなく、その後の長い人生を幸せに生きぬくための力を育てたい。自ら育とうとしている子どもたちに寄り添いたい。
そんなマ・メール保育園が目指す保育のあり方について、マ・メール保育園を運営する社会福祉法人松壽会の理事である田中ポールさんに、詳しくお話を伺いました。
お話を伺った人
社会福祉法人松壽会 理事 田中ポールさん
大学卒業後、一般企業を経て、三重県桑名市のマリア・モンテッソーリ幼稚園に入職。
モンテッソーリ教師の資格を取得し、2010年より園長を務める。2018年に松壽会の理事に就任。
Q1.マ・メール保育園は、「子どもたちが持つ『のびる力』を尊重する」という保育理念を掲げておられますが、実際には子どもたちとどのように関わっていくべきだとお考えでしょうか。
私は、人間って、褒められるよりも認められることに喜びを感じると思っています。
子どもは大人に見てもらい、言葉をかけてほしいと思っていますが、ただ「すごいね」って、褒めさえすればいいってもんじゃないんです。今までのその子と何が変わったのか、何がすごいのかを見極めて、具体的に認めてあげるのが大切です。
「靴がはけたよ」って子どもが見せに来たとしたら、「1人で履けるようになってすごいね」なのか「左右間違えないで履けてすごいね」なのか、それを分かってあげたい。
そのためには、この子は昨日まで何ができなかったかを知っていて、今日は先生に何を見せたいのか、気づけないといけないんです。
だから常に、今の子どもの状態と、次に何を目指すのかを、よく見ておかなければいけません。子どもは3ヶ月も経てば、まるっきり別人になるほど成長しています。
Q2.それぞれの違いを丁寧にみつめて、一人ひとりに沿った言葉をかけることが、子どもの力を尊重することにつながるんですね。
子どもたち一人ひとりがやりたいことを、自由にできる環境と時間を用意してあげることも、とても大切です。それはもちろん、子ども自身の欲求を満たし、自らやってみるという活動が重要だからですが、それだけではないんです。
集団生活の中では「みんなで一緒にやりましょう」という時間があります。ですがそれは、子どもにとって辛い時間の場合もありますし、特に年齢が小さい子たちは、初めからうまくやることはできません。
そこで必要なのが、まず個人活動の時間をしっかり取ることなんです。それぞれが自由に過ごせるようにして、満足を得られるようにします。すると子どもたちは「毎日必ず、自分のやりたいことができる時間と空間がある」という安心感を持てるんですね。
この安心感があると、「みんな一緒」の時間が多少辛くても、落ち着いて過ごせるようになるんですよ。小さな子どもがこんなに人の話をちゃんと聞けるのか、きちんと座っていられるのかと、初めて見た人なら驚くほどです。
Q3.子どもたちにとっても、先生方にとっても幸せな関わり方ですね。他にも重視されていることはありますか。
具体的な経験を積み重ねていくことです。小さい子どもたちには、抽象的な観念はなかなか理解できません。例えば、「このくらいの大きさだよ」「このへんに置くんだよ」などと言ってもわからない。だからまず、子どもには具体的な活動がとても重要です。
同じものを揃えるとか、大きさの順に並べるとか、色で仲間分けをするとか、そういった活動をどんどんやって、物事を理解していく。するとその後、数や言葉といった抽象的なものも自然にすっと入っていくようになります。
日本に古来からある「道」の考え方に近いんです。「茶道」とか「柔道」とか。最初は、やって意味があるのかなあと思うような挨拶の仕方や動作の決まり事でも、段階を踏んで一つ一つ身につけていけば、あとから子どもの中で生きてきます。
一つずつステップを踏んでいくという意味では、江戸時代の寺小屋にも近いと思っています。年齢の違う子どもたちが一緒に過ごして学び合う中で、小さい子は大きい子に憧れて、何をしているんだろうなと見て、真似をして成長していくんですよね。
Q4.では、先生の役割は、子どもたち自身が具体的な経験を積める環境を整えた上で、成長を見守る、ということでしょうか。
先生という人種は「教えたがり」なんですよね。基本的に真面目で、子どものために何かしてやりたいと思っている。だけどね、「教えてあげたい」という気持ちは勘違いなんですよ。
さっきもお話したように、子供は具体的な経験と活動を通してのみ、自分を成長させられるんです。大人の知識や経験を教え込もうとする必要はありません。教えるのではなく、子どもの中から引き出せばいいんです。
小さな子どもは一から全部、自分でやってみてはじめて、その経験が血となり肉となるんです。ですから「教えたい」という気持ちを抑えて、まずは今その子が何をしようとしてるのかに気づく。そしてその要求を実現するためにはどんな環境や活動を用意したらいいかを考える。先生の仕事としてはそれが一番大切ですね。
大人が教えるのではなくて、大人の方が、子どもから学ぶんです。そして大人も成長し、子どもは大人の真似をして、大人に習って成長する、そんな循環ができれば理想的だと考えています。
Q5.マ・メール保育園の先生には「子供が求めるものに気づける能力」が重要だと言えそうですね。
それはとても大事です。でも、最初からできる人は滅多にいませんから、子ども自身が持っている成長欲求を信じて、子どもをよく見てほしい。これまでのスキルとか経験とかは関係なくて、むしろ忘れてくださいっていう感じです。
もちろん、それまでに身に着けた知識や技術を否定するわけではありません。しかし「前の職場ではこんなふうにしていた」ということにとらわれずに、マ・メールのやり方や考え方を積極的に理解して取り入れていただきたいです。成長するのは子どもだけではありません。できるだけ子供自身に考えさせ、やらせてあげるように、大人である先生も自ら、柔軟に学ぶ姿勢をもってほしいですね。
Q6.マ・メール保育園で働く最大の喜びは、どんなところにあるとお考えでしょうか。
関わっている子どもの毎日の成長を見つめていると、その成長を我が事のように感じられるときがあります。子どもが「できた!」って言ったことが、先生自身が「できた」ことかのように、感激できるんです。
先生は、この子に今必要なものは何か、じっくり見極めて考えて、これぞという活動を用意したわけです。それがぴったりはまって、子どもの成長につながった事実にも「やった!」という気持ちになりますよね。
子供の成長を我が事のように喜びつつ、自分にも成長する喜びがある。子どもと一緒に育って、一緒に喜ぶ事ができる。
子どもに教えよう、育てようという考えではなく、子どもから学ぼう、一緒に育とうという想いがある方には、とても魅力的で、やりがいのある職場です。子どもの中から育つ力を引き出すように、先生自身の中からも新しい力が引き出されてくると思いますよ。
(取材・編集 / エドゥカーレ)
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